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気侭にFFCCで小説やら何やら書いてます。 Sorry, this site is JAPANESE ONLY!!
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二千年前にこの世界に巣食い始めた瘴気の主を倒した英雄の帰還を、
キアランは誰よりも静かに凪いだ顔で見つめていた。


にこにこと誇らしげに微笑むエリンの目を見て、
自分にはもうプロポーズする権利がないのだと彼は気づいたからだった。


エリンとチャドの結婚式は、キャラバンが最果ての土地より
村に帰ってきてから二週間後に執り行われた。

二人は小さい頃からずっと一緒だったから、
いつの間にか友情が愛情に変わってもそれは不思議ではない事だ。

種族の壁を超えて結ばれた二人の結婚を、
誰もが祝福し、幸せにだとかおめでとうだとか二人に声をかけている。

「綺麗だよエリン、とっても」

瘴気の晴れた綺麗な青空と対となるように真っ白なドレスを着たエリンを前に、
キアランは惚けたようにして呟いた。
惜しむらくは相手が自分でないことなのだが、
キアランは今日この式のことを聞いてああそうか、と納得したように笑った。

そうだよな、エリンはずっとずっと彼のことが好きだったんだから。

望んでいない相手であるよりも、好きな相手のほうが良いんだ。

背丈が小さい為、花嫁姿のエリンと並ぶと少し不恰好に見えるチャドは
緊張しているらしく何度もタイを結びなおしている。

「ありがとう、キアラン」
「…お幸せに」
「うん、ありがとう、」

音もなくチャドの傍へと歩み寄る彼女の後姿をじっと見送ると、
やや乱暴にシャツの袖で目元を拭い、もう一度キアランは笑った。
随分前から思いを寄せていたとは言え、
やっぱり彼のことを選ぶのだということを認めた時から、
何度も何度も。

ふとした拍子に悔しい顔をしてしまいそうになって、
それじゃ新郎新婦が傷つくだろうと思って無理やり笑っているのだ。


「さて、良いかの」

村中の人々が広場に集まり、それを確認した村長が
恭しく分厚い本を広げ、朗々と祝いの言葉を読み上げる。
ショールが朝日にきらきらと輝き、
エリンの耳に付けられた可愛らしいピアスが風に揺れて、
凛とした彼女の頬に当たった。

寂しさに思わず目を細めたキアランの肩を、彼の母親が勇気付けるように叩き、
キアランは振り向いて大丈夫だと頷く。

「幸せにね、エリン…」

二人が向かい合った時、ひっそりと一人だけ、
キアランはその場を立ち去って村の外にある橋へ向かい、そこで座った。

川のせせらぎを聞きながら、もう一度広場の方を― 
今頃はきっと割れるような喝采で包まれている式場を見つめ直した。

そうして座ったまま暫くしてから、手すりに組んだ腕の上に顔を伏せて、
ぼろぼろと大人げなく泣いた。
一体今日はどの位泣いてしまえば気が済むのか分からなかったが、
泣いていなければやり切れない気持ちで一杯だった。

目を閉じれば先程見た幸せそうなエリンの笑顔と、
その手を引くチャドの姿が焼きついて、頭を振っても離れなかった。



*********
ア.ルテ.ィマニ.アの巻末小説を読んで思わず。
弟に「キアラン出てるよ、ラストで思いを寄せてるよ」と言われるまで
全く気付かなかった私。

2007.12.25
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