一年目 「序章」

それは、今より少しばかり昔のことだった。

ある晩、普段大人しくあまり泣かない子供が、悪夢を見て泣いた。
怖い夢を見た、と言って泣きついてきた幼い息子をなだめすかし、
母は優しくおとぎ話を語って聞かせた。

　遠い遠い昔、世界が瘴気のない楽園だったころ
　“姫”は人々の思い出の輝きを集めて
　クリスタルの輝きに変えていました　…

子供は今まで聞いたことのなかった物語に、はっとして顔をあげた。
そのおとぎ話を語り聞かせながら、母はそっと子供の頭をなでる。

「私は無理だったけれど、いつかきっと瘴気が晴れるのよ…」

母が祈るように息子を見つめる。

「人々の思い出の力を信じなさい、キアラン。
　思い出は、いつか必ずあなたの力になるのよ」

クラヴァットには珍しい金髪の少年―キアランは力強く頷く。
幼いとは言えど、いつか訪れる使命の時を、キアランは感じていた。


今の僕では無理かもしれない。

けれど、いつか必ず、この世界を覆う瘴気を晴らしてみせるんだ。

“姫”を、助けるんだ。


悪夢にぐずる子供は、いつしか凛とした顔立ちの少年へと成長する。
代々受け継がれてきた年代記―クリスタルクロニクルを胸に抱いて…

＊＊＊＊＊＊＊＊＊
キアランの両親は元キャラバンメンバー。
父親アリオンが「ミスター・マジック」として有名なのは尚の事、
母親クリスティもそれなりに魔法使いとして有名だったりする。

2009/8/19